日曜日の約束を、一方的にキャンセルしてしまった。
約束を破ったことを謝らなければならない。
編入時に教科書と共に渡された学園名簿を取り出し、自宅の電話番号を調べる。
ためらいながら、電話のダイヤルを押した。 |
〔須王〕 |
『はい、もしもし』 |
〔暁人〕 |
「……須王?」 |
〔須王〕 |
『暁人か。今日はどうして来なかった? 何かあったのか?』 |
〔暁人〕 |
「……約束破ってごめん」 |
〔須王〕 |
『そんなのいいさ。それより、何かあったんじゃないのか?力になれることなら相談にのるぞ!』 |
約束を破ったことを少しも責めず、暁人を本気で心配する須王の声に、申し訳なさがつのる。
これ以上、関係のない須王を危険に巻き込むことは出来ない。
学園祭のときのように、そばにいれば暁人を助けようと、須王はまた無茶なことをするに違いない。
これ以上、須王を暁人のため傷つけさせたくない。
できるだけきっぱりとした言葉と態度で、須王を退ける必要がある。
感情を交えないよう抑えた冷たい声で、暁人は須王に告げた。 |
〔暁人〕 |
「別に、何でもない。君には関係ない」 |
〔須王〕 |
『暁人……?』 |
〔暁人〕 |
「君に、言っておきたいことがある。
今後、学校でもそれ以外でも、僕にはあまり関わらないようにして欲しい」 |
〔須王〕 |
『どういう事だ……?』 |
〔暁人〕 |
「僕を助けてくれる人を見つけた。君と違って、おかしな現象に詳しい専門家だ。
その人がこれから僕を守ってくれる。だから、君にそばをうろつかれると迷惑なんだ」 |
〔須王〕 |
『……昨日おれに、そばにいて欲しいって言ったのは?』 |
〔暁人〕 |
「あの時は、君が僕の盾くらいにはなるかと思って、そう言っただけだ。本心じゃない。
けどもう、君に用はない」 |
〔須王〕 |
『…………』 |
声が震えないよう、受話器をかたく握りしめながら、取り付くしまのない冷ややかな声で宣告する。
これまで、あんなに暁人に良くしてくれた須王に対して、ひどい言葉をぶつけるのは辛い。
けれど、恨まれるほど冷たい態度を取らねば、須王はこれからも、暁人を助けようとするだろう。
恐らくこれから聞こえるはずの、暁人をなじる須王の言葉を、目を閉じて待った。 |
〔須王〕 |
『――暁人、ひとつだけ聞かせて欲しい。
おまえは今、独りじゃないんだな……?』 |
〔暁人〕 |
「……うん」 |
〔須王〕 |
『なら……いい。
お前に頼ってもらえないのは、ちょっと寂しいけど、頼れる人がそばにいるなら、それでいい。
じゃあな、暁人。おやすみ……』 |
ほんの少し寂しそうな声でささやくと、須王は電話を切った。
……須王は、最後まで暁人を責めなかった。
涙が出そうな須王の優しさに、何も返すことの出来ないおのれの無力が切なかった。 |